特別対談
シラス壁を作った男と壁面の芸術家が”左官の未来”を語る 左官 挾土秀平 × 高千穂シラス(株)代表 新留昌泰
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数々の芸術的な壁を手掛けてきたことで知られる左官・ 挾土秀平氏と、高千穂シラスの代表・新留昌泰の初となる 対談が実現しました。
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挟土さんに左官職人の 地位向上を任せたい (新留)
新留
「すごい男がいる」と挟土さんの噂を初めて聞いたの が、いまから10年ほど前。
それ以来お会いしたいと思って いました。 さんが手掛け た、NHKの大河ドラマ「真田丸」のオープニングの題字にも感動しました。
挟土
「真田丸」の題字は、高さ3メートル、幅6メートルの土壁に。
書道の心得はないので、文字を模様だと思って書き上げたんです。
新留
多くの人が土の魅力を感じたと思います。挟土さんは、どうして左官の世界に?
挟土
父親が野丁場中心の左官屋だったので、家業に入る形で職人になりました。
当時はモルタル中心で、自然素材や土を扱うようになったのは独立してからです。
独立後は、文化財や商業施設などの工事独創性を出した結果、賛否両論の騒動が何度も(笑)。
新留
お父さんの元を離れて 独立したのには、何か理由があったのですか?
挟土
独立する前に4年半がかりでやったトータル1万8000人工の大仕事で燃え尽 きてしまって。
そんなときに土壁の優しさに気付き、お客さんから「きれいな壁だね」と言われる仕事をしたいと思って独立しました。
何人か若い衆がついてきてくれたので、 奮い立ちましたね。
新留
私も高卒でゼネコンに 入って、仕事は現場で覚えました。
26歳で独立し、90年代にシラスと出会ってこれまで やってきたので、
自分のやりたいことに出会い、仲間と頑張って来た挾土さんの気持ちはよくわかります。
お互い立場は違いますが、左官業界を盛り上げていきたいですね。
挟土
少し心配なのは、左官の芸術性ばかりに注目が集まってしまうことでしょうか。
左官で一番大切なのは、きれいに塗って、心地よい空間を仕上げること。
そういう部分に目を向けず「挾土さんにあこがれて......」なんて職人ばかりになったら、業界はダメ になります。
新留
でもインテリアデザイ ンを考えると、見た目のポイントになるような芸術性も必要なので、
挟土さんの仕事は実に大事。ピンからキリまで左官職人がいるなかで、
挟土さんにはその最高峰にいてもらい、左官職人の社会的地位を引き上げてほしい。
五感を駆使することで多様な仕事が可能に (挾土)
近年は左官に対する世間での認知度が気になってい ます。
講演会などで「左官って何だか知っていますか?」と聞くと、
手を上げてくれるのは200~300人のお客さんのうち2~3%程度。
いまは「左官」という言葉を知ってもらうところから始めないといけない時代です。
新留
建築の世界では大工と左官は古来から格の高い職種でした。
その名が示す通り、左官は”官職”でもありまし た。ところが、高度成長期を過ぎると左官は
「きつい、汚い、危険」とされる3Kの筆頭にされてしまった。
挾土さんは著書に「いまや左官職人は絶滅危惧種である」といっ た意味合いのことを書かれていましたよね。
挾土 はい。
新留
でも挟土さんの頑張りで、左官職人に再び光が当たるようになりました。
そんななか、メーカーの社長である私には別の責任があると思っています。
それは、シラス壁を広め、たくさん塗ってもらうということ。 近年は健康志向の上昇で、
自然素材が見直 されていますよね。ところが、左官職人が足りないために、
シラス壁はゼネコンから尻込みされがちなんです。
左官業界はすっかり高齢化していますし、職人不足は本当に悩ましい問題です。
挾土
うちの職人がいくらで もりますよ(笑)。
新留
とても心強いです。
挾土
うちは頼まれればどんな仕事でもします。 壁を塗る だけではなく、
礎石もタイル貼りも ブロック積みも。 湿式工事は全部やります。
庭を作ることさえも左官だと考えているんです。
新留
その話を聞いて、私の地元・九州では、
左官屋さんが屋根瓦を土で止めていたことを思い出しました。
挾土
「壁を塗るだけが左官じゃない」という概念はすごく大事な気がします。
庭にせせらぎを作って、水を早く流すのかゆっくり流 すのかを調整するのも左官工事。
良質な土壁を、天候に関わらずパ ーッときれいに仕上げられるようになるには五感をフルに 使う必要がありますから、
自然を感じ、庭を仕上げたりすることもおのずと出来るようになるんです。
そういう部分に、本来の意味での左官が復活する鍵があると思っています。
新留
壁を塗れるようになると、ランドスケープまで見えるようになるわけですね。
実は私も、鏝を持って作業をするだけが左官ではないと思っ ていました。
狭い発想にとらわれてはいけないだろうと。シラス壁へのニーズはあるのに、
鏝を満足に使える職人が 足りないのなら「そういう職人にもできる仕事を考えるよ」
ということをやっていきたいんです。そうすれば、塗り壁も左官職人も、決して絶滅しないと思っています。
人間と土の関係は DNAに刻まれている(新留)
新留
近年の挑戦として、われわれはシラスを使った絵具の開発に取り組みました。
自然素材ゆえに、子供が絵具を舐めてしまったとしても安全なものを作れないものかと。
挾土
私は、自分が手掛けた左官ショール ームへ多くの方を招くことに取り組んでいます。
実際にその場の空気を感じてもらえるので、塗り壁の良さが確実に伝わります。
新留
シラス壁も一番のウリは空気です。確かに、室内で空気を感じてもらうのが一番ですよね。
喘息やアトピー性皮膚炎の方は、より敏感に分かるみたいです。健常な方でも敏感な人は「この部屋の空気何ですか?」と。
挾土
ただ、近頃は土壁とクロス壁の違いが分からない人もいます。現代人の感性は実に鈍化していますよね。
新留
クロス壁から出ている化学物質の臭いに気付かない んでしょうね。
挾土
そんななか私は、4K、8Kのテレビモニターが、現代人に土壁の良さを伝えてくれるのではないかと期待しています。
映画やドラマの背景が鮮明に映し出されることになるので「背景は土壁がいい」という流れが生まれて、
土壁の家に住みたがる人が増える かもしれません。
新留
非常に面白いですね。、その切り口は。
挾土
人々の見る目が上がっていくのだとしたら、職人はそれ以上の目を持たないとダメですよね。
そして、違いを語れないといけません。
新留
なるほど。土の良さは本来誰しもが感じられるものですよね。
私は、人と土の関係の重要性はDNAに刻みこまれていると思っているんです。
人類の祖先は、地面に掘 った縦穴や洞窟に住まい、 土とともに生きてきました。
だからこそ、われわれ現代人も 土に癒されるのではないかと。
100%自然素材ゆえに説得力がある (挾土)
新留
話を左官職人に戻しますが、大事なのは「お前、土は好きか?」ってことではないと思っています。
それよりも「壁を塗れば稼げるよ」と、 若い職人に向けて状況を整えてあげることが重要。 それはメーカー側にも責任がある。
挾土
いまは仕事も多くないので、なかなか腕を磨けないんですよね。
だからこそ、 左官職人は目の前の壁をきっちり塗らなければいけません。
新留
われわれ高千穂シラス は、これからも100%自然素材にこだわって、左官業界を盛り上げていきますよ。
挾土
私個人としては、どんな素材でも場面によって使い分けて、見た人の感性に響く壁を作ることを大事にしてい きたい。
そんななかで「シラ ス壁は100%自然素材だ」と、新留社長が力強く断言し てくれるので本当に頼もしいですね。
先ほどの「職人は違いを語れないと」という話につながるのですが、素材を信頼できると仕事に説得力が加わるんです。
シラスは自信を持って塗れますね。